ダリ、1歳の通信簿
ダリがわが家に出現して以来、やらかしてきたことを大まかにまとめると、次の6つになる。@粗相。A咬む。B壊す・ぶん捕る。C吠える。D引っぱる。Eなんでも食べる。
どれも子犬がやりそうなことで、読者のアナタの愛犬もどれか1つくらいは経験があるかと思う。1つ2つしか思い当たらないという(犬の)キミはほとんど天使だし、3つ4つでもまぁ愛嬌のうち。ところが、6つ全部を実行するとなると…これはやはり、テリア並みのパワーなくしては不可能だといっていい。実際、ダリの場合、生後半年頃にはこの全部をやり遂げていたのだ。
そしてだからこそ、私たち家族は文字どおり血のにじむ思いでしつけ教室に通ってきたわけだが、いったい少しは進歩したのだろうか。この辺でダリの生活態度を総括してみることした。
@粗相=改善度95%
不思議なことに、いつの間にか解決した。オシッコは生後3カ月くらいでほとんどマスターしていたし、ウンコも「フン食事件」(8月号参照)を別にすれば、今やほとんど完璧だ。
A咬む=改善度75%
これもかなり改善したといっていい…と思う。少なくとも血は出なくなった(単に太くて手に刺さりにくい永久歯に生え変わっただけ、という見方もあるが)。懸案の「だっこギライ」も、ダリが「ンナローッ! 離せよぉっ!」と咬もうがわめこうが断固無視する作戦が効を奏してか、5分くらいは黙って抱っこされるようになってきた。
B壊す・ぶん捕る=改善度25%
相変わらずというより、ある意味ますます巧妙になったかもしれない。ダリが後ろ足で立ち上がり、思いきり伸び上がると食卓の上にようやく鼻ヅラが出る高さになる。そのため獲物となる台拭きは、テーブルの端ではなく中央に置くようにしているのだが、それでもダリはまんまとフキン強奪に成功することがしばしば。
まず、離れた位置にあるソファの背もたれの上に登り(ジャック・ラッセルにとって、ソファの背もたれの上を忍者のごとく疾走するなど朝飯前)、姑息にも高所から獲物の位置を確認した上で、再び食卓の下から伸び上がり、これが犬かと疑うほどニョ〜ッと長く首と舌を伸ばすと、絶対安全に見えた場所にも届いてしまうのである。
一方、強奪&破壊の対象範囲が狭まってきたことはプラスといえなくもない。さすがにゴミ袋やトイレシーツなどには見向きもしなくなり、主に父のカシミアセーターや母のシルクスカーフなどに絞られてきたようだ(トホホ)。
C吠える=改善度マイナス80%
ご存知のとおり、幼い子犬は吠えない。しかし、成長したジャック・ラッセルの7L足らずの体から、これほど大声が出るとは! 私たち家族はご存知でなかった。最近のダリは、どんどん豊かになる自分の声量に酔っているかのようにさえ見える(9月号参照)。「ひたすら無視し続ける」というムダ吠え対策の基本を実行するには家族の忍耐力が足りないため、現在「うるさいときはハウスに収監」方式を試している最中である。
D引っぱる=改善度50%
ジェントル・リーダーというしつけ用ストラップ(6月号参照)を付けての散歩では、かなり上手に、つまりそれほど引っぱらないで歩けるようなった。が、問題は周囲の無理解である。口輪と勘違いする通行人が後を立たず、「この犬咬むんですか?」(ハイ、確かに咬みますが、口輪ではありません)とか、「まぁ、かわいそうに」(これは犬に安心感を与えてコントロールするためのものなんですッ)という言葉にいちいち応えてきた母も、さすがにウンザリしてしまったのだ。で、日中の散歩は普通のリードを使うことにしたのだが、四方八方に引っぱっていた以前とは違い、とりあえず進行方向だけは定まってきたのでヨシとしよう。
ちなみに「いつの日か普通のリードでも上手に歩けるようになるんでしょうか…?」としつけ教室の先生に尋ねたところ、「いやぁ。テリアですからねぇ。ラブやゴールデンのような側歩を期待なさっても…。なんとなくそこら辺(足元)にいればヨシとしてあげてくださいね」。自身もヨーキーの飼い主である先生の言葉だけに納得。ダリももう一息か…?
Eなんでも食べる=改善度30%
食事の好き嫌いの話ではなく、文字どおりなんでも…床や路上に落ちているモノは、小石でも松ぼっくりでもチラシでも、とにかくまず口に入れる。で、しばしば飲み込んでみる。お散歩デビューの頃のダリは、自動操縦の掃除機さながらだった。私たちが最も恐れていたタバコの吸い殻や小石、プラスチックの破片だけはさすがに拾わなくなった点は、改善したといえるだろう。とはいえ、つい先日もよその犬の落とし物を口に含み、母があわててつかみ出した(素手で!)残りを食べてしまったのである。くわばら。
ダリへの質問
全体を通してみれば、ダリなりにかなり進歩したといっていい。いいと思うのだが、しかし、私には彼に問いたいことがある。
どうして犬なのに臭いを嗅がない?
まぁ、フキンやスカーフをぶん捕るのがスリリングなのはわかる。吠えるのも、退屈だったり注目されたいからなんだろうし、咬むのだって悪意じゃない。
遊びたいときに抑えつけられるのがイヤなだけなのはわかってる。
しかし、何でもかんでも食べちゃう前に、どうして、まず臭いを嗅いでみようと思わないか? キミの顔の先っちょについている黒く濡れたソレは、鼻というモノなんですけど。
百歩譲って、アカの他犬のウンコや庭に落ちている腐った柿も、犬にとっては魅惑的な臭いがするのかもしれない。でも、コンビニのレシートやちぎれた靴袋がそんなにウマいか? 千歩譲って、紙や糸クズだって噛み心地はいいのかもしれない。しかし、飲み込むに値する味があるのか? まずは臭いを嗅いで、次になめてみて、それから口入れるのが犬として普通じゃないか?
ダリの気持ち(常にオモシロイことをしたいというだけのことだが)もおおむねわかってきて、ダリ自身にも家族の一員としての自覚が出てきたように見えるこの頃、母は日記にこう記している。
「お誕生日も迫ってダリはちょっとオトナっぽくなってきた」。
以前は、睡眠中以外は常に注意していないと、とんでもないこと(スリッパを食べたり、メガネのつるをしゃぶったり)になっていたのが、このところ「様子をのぞいてみるとソファに座ってじっと遠くを見ていたりして、まるで普通の犬みたい」というのだ。「もっとも、これはごくタマにあることだけど…」との注釈付きながら。
「フツーの犬らしくするなんてつまんない! 分別くさいオトナになんかなるもんか!」。ウンコの中から現れる謎の紙切れや柿の種は、オトナの犬への階段を登りきれない(登りたくない?)ダリ1歳の、青春の叫びなのかもしれない。 |