いよいよお散歩デビュー!
ダリ到来からおよそ2カ月。日々問題と騒動が巻き起こる、嵐のようなこの時期、最大の心配の種は、お散歩デビューだった。
シェルティーのなかでもことさらシャイに育ててしまった先代犬への反省から、「ダリには誰とでも仲良くできる犬になってほしい」というのが、我々家族の願いだった。
が、ダリは高性能小型爆弾並みのカンシャク持ち。遊びたい気分のとき(つまり睡眠中以外は常時)に抱き上げるだけで、ギャルルッと奇声を上げ、自由を奪うその手に容赦なく乳歯を突き立てるのだ。
こんなに強烈な性格で、人や犬と仲良くできるだろうか? それどころか、誰かを咬んで傷害罪を犯したらどうしよう。あげくに死刑判決が下ったら…と心配は膨らむばかり。
だから、2回目のワクチンが済んでいよいよお散歩デビューという日は、まさにドキドキものとなった。
真新しいリードを付けて(もちろん、装着の際にもひとモンチャクあった)、いざ出発。アスファルトの上にそのちっこい肉球を下ろした途端、案の定、ダリは四方八方に飛び出した(彼は同時に四方八方に走れるのだ/前号参照)。首輪がくい込んでも何のその。ゲヘェ〜ゲヘェ〜と無気味にのどを鳴らしながら、リードもちぎれよと引っ張りまくる。
やがて、ご近所の奥さんが通りかかると、「あらぁ、かわいいわねぇ」のひと声に、ダリは一直線! シッポをプロペラ状態にして、奥さんの膝に飛びついた。ま、お行儀は悪いけど、まずは初対面の人にもフレンドリーなことがわかってひと安心のデビューとなった。
なった…のではあるが、しかし、ダリはその社交性においても、ハンパじゃあなかった。路上でも公園でも、出会う犬すべてに飛びつきまくる。毋犬に甘えるしぐさといえばカワイイのだが、巨大なラブだろうがお上品なトイ・プードルだろうが、機嫌の悪そうな柴だろうが、前足で相手の顔をひっかきまくるのだ。
結果、みんなが「うへぇ〜」という顔で離れてゆく。ダリはといえば、相手の迷惑顔にもまるで気づかず、名残り惜しげにゲヘェ〜ゲヘェ〜と後を追う始末である。もちろん、その社交マナーは人間に対しても同様で、声をかけてくれる人、もしくはかけてくれそうな、あらゆる通行人に激しく愛想をふりまくのだった。
父パンダ事件
そして、事件は起こった。
その日の父は、疲れが溜まり、どこかぼんやりしていたそうだが、いつものようにゲヘェゲヘェと前のめりに進むダリを連れ、ボ〜ッと散歩に出たという。と、そこへご近所の娘さんが通りかかって、「わぁ、かわいい!」。その瞬間、道の反対側の彼女に向かって、ダリは弾丸のごとく飛び出したわけだ。
突然、思わぬ方向に引っ張られた父は、スッテンコロリン。側溝のフタにしたたか顔を打ちつけて、眼鏡は飛ぶわ、額は切るわ…その後半月ほど、片目の周りが真っ黒いアザになり、不機嫌なパンダ顔になってしまったのだ。
わずか4L足らずの子犬の仕業である。「かわいい」のひと言でこの怪我である。愛想の良さにひと安心どころじゃない。問題の咬み癖にカンシャク、さらに引っ張り癖も加わったとなると、ボス気取りのワガママ病、アルファ・シンドロームへ、一直線じゃあないか!
もう一刻の猶予もならない。兼ねてから「ジャック・ラッセルを育てるからには、しつけ教室に通わねば」と、赤坂動物病院でオリエンテーションを受けていたのだが、いよいよ切羽詰まった気持ちで、初登校の日を待ちわびるようになった。一日も早く、正式な教育を受けさせねば!
が、またもやしかしである。教室や動物病院への移動の際には、キャリーバッグを使うことになるのだが、抱っこでさえ嫌がって荒れ狂うダリをカバンに納めるとなると、ご想像のとおり、ひと騒動となる。悲鳴もひときわかん高く、噛みつきまくるその暴れぶりは、まさしく手負いの猛獣。もちろん我々ハンター(?)だって、毎回、血を見る。心配や問題を解決するために出かける教室なのだが、パピークラスのある毎週日曜ごとに、この儀式をくり返さねばならないわけだ。
「これは犬ではない、ライオンの子なんだ。そう思えば、腹も立たない」。
育児に疲れ、先行きへの不安がつのるばかりだったこの頃、日記の中で、母は自分に言い聞かせている。 |