ダリのレストラン・デビュー
ダリの最初のクリスマスはほろ苦いものだった。一昨年、ダリ5カ月の時に出席した、しつけ教室開催のクリスマス会でのことである。みんなでコスプレをして(犬たちが、である念のため)記念撮影をする際、ダリだけがサンタハットを断固拒否して(暴れ狂ってしつけの先生ふたりがかりでも被せられなかった)、ひとりだけ生まれたままの姿で写るハメになってしまった…という顛末は、去年書いたと思う。
もちろん、この一件を本犬はまるで気にしていない。が、母と私には、真っ赤なトンガリ帽子のMダックスくんや、ふわふわのケープをまとったチワワ嬢がとても眩しく見えて、「うちの子だけが…」と、ちょっぴり悲しい体験だったのだ。
そして1年後、ダリに、再びクリスマス・シーズンが巡ってきた。1歳5カ月を迎え、さすがにレインコートやTシャツは着られるようになってはいたが、帽子やケープは未体験。「今年もダメかなぁ…」と不安半ばながら、凝りもせず教室のクリスマス会に出席を申し込んだのだが…、そんな折、奇しくもダリにもうひとつパーティーの予定が入った。原宿の、とある犬ブティックのパーティーに、飛び入り参加させてもらうことになったのだ。なんと会場は裏原宿のレストラン! ダリにとっては生まれて初めての体験、レストラン・デビューである。
それにしても、レストランで犬連れOKとは、日本では破格の寛大さである。しかしそれだけに、当然の常識として「マナー」が求められているのは言うまでもない。万が一ダリが何かやらかして、そのせいで以後、お店の方針が「犬お断り」に転じてしまったら…と、冷や汗とともに席についたのだが…。
ありがたや。私の椅子にリードを結び付けると、ダリは吠えもわめきもせず、ほとんどの時間を寝そべって過ごしてくれた。他の出席犬に飛びつこうともせず、テーブル上の料理を強奪もせず、声をかけてくれる人全員に激しく愛想を振りまいたり、遠くのテーブルから落ちたお絞りの袋を狙う以外には、ほぼ合格点のマナーだったと思う。
残念なことに、テーブルの下で粗相をしてしまったが、これはダリのそぶりに気づかなかった私のペナルティ。友人がワイングラスにひたした指をチュバチュバとなめて(友人でなくダリが)、生まれて初めてお酒も味わった。そして、これも初めての11時過ぎの深夜帰宅。パーティーが楽しかったのか、帰宅して安心したのか、はたまたワインに酔ったのか、その夜ダリは夜半まで、ひとり、すごい勢いでリビングを駆け回っていた。
【ポイント】
偉そうにアドバイスする立場ではないが、ダリがなんとかレストランで不作法を働かずにすんだのは、ひとえに彼が人間の食事を口にしたことがないからだと思う。人の食べ物を犬に与えるべきでないのは、健康上もしつけ上も常識だが、ジャックの場合、まさしく御法度。もしダリがレストランで料理の分け前を求めていたら、もらえるまで耳も裂けんばかりの大声でわめきたてるか、持ち前のジャンプ力を発揮して、お皿一枚とて無事ではおかなかっただろう。人間の料理はジャックにとってパンドラの箱なのだ。ところで、よもやあなたは空けてはいないでしょうね、パンドラの箱を…?
サンタ帽でリベンジ!
そして、いよいよメインイベント、しつけ教室のクリスマス会の日がやってきた。レストラン・デビューをなんとか無事に果たしたこともあり、母と私は、ちょっぴり自信をつけて乗り込んだ。ダリはもちろん、いつもと変わらず上機嫌だ。
プログラムの前半は、自己紹介とゲーム。去年と同じアイコンタクトやオイデ競争に加えて、今年は成犬クラスだけに、シッポ振り競争やリボン巻き競争(一定の時間内に、犬の体の指定された各所にどれだけたくさんリボンを結べるかを競う)など、難易度の高い種目も加わっている。前年は総合優勝(3匹の中でだが)したダリだが、今回は気合いが入り過ぎた…といえば聞こえはいいが、要するに興奮し過ぎ。得意のはずの反応の早さを競うアイコンタクト競争やオイデ競争も集中力を欠き、さらにコスプレ嫌いがたたったか、リボン巻き競争でもつまづいて、今回は準優勝に甘んじた(4匹の中でだが)。
しかも、前年はライバルの競技中も比較的おとなしく観戦していたのに比べ、今回は出番が待ち切れず、ギャオギャオと大音量でヤジを飛ばす始末。「こりゃあ、今年もダリだけ裸で記念撮影か」と、リベンジの期待は薄れてきたのだが…。
どうか写真を見ていただきたい! 誓ってこれはCGの合成写真ではありません。そう、ついにダリは因縁のサンタハットを被ったのである。そればかりかマフラーまで装着に成功したのだ! 確かに、ダリはすでにTシャツやレインコート、さらにこの冬は、母が編んだセーターも着こなすようになってはいたのだが、服は一度着せてしまえば、犬が自ら脱ぐことはまずできない。それに引きかえ、帽子は前足でひっかけば、簡単に脱げてしまうのだから、私に言わせれば、より難易度の高いファッション・アイテムなのだ。
写真の他にも、イチゴの被りモノで変装したり、天使の羽を背負ってみたり、ダリは何度も衣替えをして、前回の屈辱を十分に晴してくれた。そして、トナカイ帽やケープ姿のクラスメイトとともに、念願の集合写真も! ご想像の通り、シャッターが切られた一瞬後には、さっそく前足で帽子をひっかき始めたが、ともかく撮影の間だけでも、被っていられたことはダリにしては快挙なのである。
【ポイント】
人はなぜ犬に服を着せたがるかと言えば、もちろんカワイイからである。確かに人によっては、愚かしいとも、犬をおもちゃにする行為とも感じるかもしれない。しかし、犬に服を着せることは、実は「体に触れられても嫌がらないようにする」などしつけ上の意味や、訪問先で抜け毛を落とさないなどマナー上の意味もある。それに、何より犬としてもウケるのは嬉しいことだ。
では、抱っこさえままならなかったダリが、なぜサンタハットを被れたかと言えば、去年書いたジェントル・リーダー(このページの写真でも黒ラブのアレちゃんがしている)のおかげである。これを装着する練習として、輪になったヒモの手前におやつをかざし、犬が自分から輪の中に鼻を通して食べるようにし向けるのだが、この方法は服や帽子、マフラーにも応用できるのだ。ともかく衿でもアゴひもでも、輪を作ること。そうすれば「輪の向こうのおやつ」は抜群の効果を発揮する。
ダリでさえできたのだから、お洒落ギライなジャック、および一般の犬諸君もあきらめるのは早い。この方法ならウィッシュボーン(★注)並みの着こなしも夢じゃない…かもしれないぞ。
★注 ジャックの飼い主なら知らないものはない、アメリカのテレビドラマの主役を張った名優犬。華麗に舞台衣装を着こなして、文学作品の登場人物を演じた。
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