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続・ダリの
小さな冒険
5月
怪盗ダリ

怪盗ダリ

〜2004年5月〜
この春、実家に引っ越した私が、
ダリとの同居生活をはじめて2カ月。
日々の仕事に追われ、遊びもイベントも提供できずにいるのだが、
ダリにはおとなしく退屈に耐える気なんてサラサラないのだった。
オレンジ色の憎いヤツ

 去る3月、犬禁マンションの家賃に耐えかねた私は、適当な移転先が見つかるまで、しばらく実家に住むことにした。以来、引っ越しから早くも2カ月。つまり、ダリとの同居も2カ月たった。で、ダリ的にはどんな2カ月だったかというと、たぶん期待外れだったに違いない。
 なにしろ、今までは実家に帰るたびに熱心に遊んでいた私が、いつもいるのに遊んでくれないのだ。夕方の散歩だけは、2〜3日に1度は父の代わりに行くことにしているのだけれど…。遊びの相手はせいぜい1日10分程度。それが不満なのか、今までもこうだったのか…とにかく、よほど退屈しているらしい。

 が、しかし、だからといって、まさかアレを盗み出すとは思わなかった。

 4月のある日のことである。
 その日の夕食は、たまには母に休んでもらおうと、私が残り物で焼飯を作ることにした。
 まずは、使いかけのニンジンや変色しかけたマッシュルームなど、冷蔵庫から発掘した材料をキッチンワゴンの上に並べ、次々と適当な大きさに切ってゆく。そのとき、ダリがちょろりとキッチンに入ってきて、ワゴンの上を狙っていたことは、私も背中で感じてはいた。そして何度も背中越しに「ダメだよ」と言い聞かせていたつもりだったのだ。が、「ダリが欲しがるもの(フキンや伊代カンの皮など)も、本当に危険なもの(玉ねぎなど)も置いていないし、ま、ダリだってイイ齢(2歳8カ月)だし…」と、タカをくくっていた私が甘かったのだ。

 不穏な気配にハッとして振り向いた瞬間、視界に入ったのは、「ヤタッ!」とばかりにリビングへ逃走するダリのお尻(と高々と掲げたシッポ)。「いったい何を?」といぶかりながら、しかたなく下ごしらえの手を休めてリビングへ行ってみる。と、テーブルの向こうでこちらの動向をにらんでいたのは、いつものダリじゃない。なんと顔の下半分がオレンジ色じゃないか! ダリがそのでっかい口いっぱいにガップリくわえていたのは、長さ15B、直径5〜6Bはあろうかというニンジンだったのだ。そして、顔の上半分にはうれしさにギラギラ光る両眼が…。

 今までにない獲物を手に、いや口に入れたダリの興奮は、相当なものだったのだろう。その逃げ方も、靴下やフキンをブン盗った時とはまるで違う。いつものように「ほ〜ら、取り返せるもんなら取ってみな!」と、獲物を見せびらかしに来て、追いかけっこを誘うつもりなんぞサラサラないらしい。私も必死で焦りを隠しつつ、できるだけ静かな口調で「ダリ、それちょうだい」と、ジワジワと距離を詰めてゆくのだが、ダリにはまったく返す気なんかない。こちらの動きをうかがう目つきは真剣そのもの。いつにも増して機敏な動作にも「絶対渡すもんかい!」という決意がみなぎっている。

 いや、そもそも子犬(またはテリアの成犬)が何かをブン盗ったときは、「焦らず騒がずとにかく無視」がしつけの鉄則なのは、私だって百も承知だ。ダリだって普段なら、「そんなの興味ないもんね」という態度で無視を続けるか、別の部屋(とくに2階の自室が効果的)に立ち去ると、ほどなく獲物を放棄する。そう、ほとんどの場合ダリのイタズラの目的は、みんなの注意を引くこと、ウケ狙いなのだから。
 が、今回の強奪は遊びでもウケ狙いでもない、本気のハンティングだ。私が「じゃあね!」と2階に立ち去るふりをする間にも、ガジカジ、シャリシャリ。ダリは私を無視して、獲物をむさぼり続けている。初めてのニンジンの味に夢中なのだ。しかし、このままでは、今夜の残り物メニューがさらに貧相なものになってしまう…!
 そこでしかたなく捕獲にかかったのである。
 母とふたりがかりでリビングの隅に追い詰め、なんとかダリを捕獲。そのキバの間から救出したニンジンは、すでに3センチほど食べられていて、残った部分も穴だらけになっていた。もちろんよく洗ってから刻んで料理に使ったので、実質的な被害はほとんどなかったと言っていいのだが…。

 その数日後、またもやダリは犯行に及んだのである。
 

ダリ史上最高の被害額?

  その日、仕事の合間に階下へ降りてみると、ダリが心なしかいつもよりおとなしい。またもや強奪事件…それも重大事件を起こしたというのだ。
 今度の獲物は父の補聴器。最新型のデジタルタイプで、耳の穴にすっぽり入るコンパクト設計…ということは、もちろんダリの口にもすっぽり入るというわけだ。で、そのお値段はというと…

 金20万円なり。

 その瞬間、母によれば「カリッという音がした」という。何の音かわからないまま、ダリの口から取り出してみると、最先端ハイテク機器がみごとに真っ二つだったという。

 カリッのひと噛みで、20万円。

 父のショックは想像に余りあるが、その顛末を聞いた時、私も言葉を失った。いや、もちろん、ダリが内蔵のボタン電池(飲み込めば死に至る危険もある)を飲み込まなかったのは幸いなのだ。ダリの命はお金には代えられないのだ。が…しかし…20万円…に・じゅう・まん・えん…。自分が20万円稼ぎ出すための仕事量を考えると、ヘナヘナと力が抜ける。私はしばし呆けたように「そう、20万円…」と繰り返すばかりだった。
 しかし、さすがのダリも尋常ならざる家庭内の雰囲気を察したのだろう。日頃、父に怒鳴られてもシッポを振ってとびつくダリなのだが、この日ばかりは、怒鳴るどころか叱る気力さえ失った家族のショックを感じとってか、午後中やけに神妙だった。

 後日、幸いなことに、問題の補聴器は、思いのほか低予算で完治することがわかり、今では無事に再び父の耳に納まっている。父によると、自身も補聴器ユーザーである販売店のおじさんも、じつは愛犬にカリッとやられた経験の持ち主だとか。

 そんなわけで、補聴器とジャック・ラッセルを同時にお持ちのみなさま、くれぐれもご用心ください。いいですか、「カリッ」で20万円、に・じゅう・まん・えんですからね。